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弊事務所では、日頃お客様の起業や会社設立をサポートさせて頂いております。今回は、創業や設立に直接関係するものではありませんが、今巷で話題になっている、事業承継税制についてご説明したいと思います。
1.事業承継税制(非上場株式に関する贈与税・相続税の納税猶予制度)とは
皆さんが会社を設立する際、会社の株式等の出資を行うことになります。その後、会社の業績が上がってくると、株式の評価額も業績と連動して上がっていき、会社の大きな財産となります。しかし、将来この株式を後継者に承継する場合、多額の相続税や贈与税が発生し、後継者が納税資金を準備できない等の問題が生じることがあります。
このような問題を解消するため、平成21年に中小企業の事業承継に伴う税額の負担を軽減する事業承継税制が制定されましたが、適用要件の厳しさや手続の煩雑さ等の理由から、利用件数は多くないのが実情でした。
そこで、平成29年度の税制改正により、この事業承継税制の適用要件が緩和されることになりました。また、平成30年度の税制改正大綱では、更に大幅な適用要件の緩和が実施される見込みです。
以下では、平成29年度の税制改正及び平成30年度の税制改正大綱について、説明したいと思います。
2.事業承継税制の改正
① 平成29年度の税制改正
今回の改正では「雇用要件の見直し」と「生前贈与の税制優遇強化」がポイントになります。これまで事業承継税制の適用を受けるには、従業員数を5年平均で80%維持する必要がありました。しかし、小規模な企業では従業員が4~5人のところも珍しくありません。例えば4人の従業員が3人になれば75%になってしまいます。昨今の深刻な人手不足の状況下で、特に小規模な企業が従業員数を維持することは大変難しく、事業承継税制の適用は高いハードルでした。そこで今回の改正では、小規模な企業でも事業承継税制を活用しやすくなるように、従業員5人以下の場合は1人減っても適用ができるようになりました。また従来は贈与税の納税猶予の適用を受けていても、その猶予期間中に雇用などの要件を満たせなくなると適用は取り消され、高額な贈与税を支払う必要がありましたが、今回の改正で相続時精算課税制度との併用が認められるようになりました。相続時精算課税は贈与額のうち最大2,500万円までを控除でき、控除額を超えた場合も超えた金額の20%の贈与税を納めればよいので、贈与税の納税猶予が取り消しになった場合の負担が軽減されることになります。
② 平成30年度の改正案
平成30年1月から10年以内の贈与税・相続税を対象とする事業承継税制の特例が創設されます。適用には平成30年4月から5年以内に承継計画を提出することが必要となりますが、この特例を適用した場合には、取得した全株式が対象となり、猶予税額は100%、雇用要件を満たせない場合でも理由書の提出などで猶予を継続できます。会社を譲渡等した場合は、その時点の株式価値で税額を再計算して差額が減免され、また、複数人からまたは複数人への承継が可能となるなど、現行制度より要件が更に大きく緩和されます。
今回の改正により、事業承継税制は経営者の方にとって、より利用しやすくなりました。
この制度について興味をお持ちの方は、弊事務所までお気軽にご相談下さい。